ネタバレなし 森見登美彦の熱帯が面白い
どうも、reoです。
先日、森見登美彦氏の『熱帯』という本を読んだのですが、それがめちゃめちゃに面白かったので記事にします。ネタバレはしません。
この本はアラビアンナイトの名でも知られる『千一夜物語』をベースとしていて、同書は文中にも登場するキーアイテムでもあります。
『千一夜物語』といえば、妻を娶っては浮気を恐れて次から次に初夜の後で殺してしまうトンデモヤンデレ暴君ことシャフリヤール王と結婚したシャハラザードが、殺されないように毎晩ベッドで王に物語を聞かせるという体で様々な逸話が紹介されていくという構造が特徴です。
この『千一夜物語』と同様に、物語の中で物語が語られる多重構造が『熱帯』でも採用されています。
最初は作者でもある登美彦氏本人の日常から話が始まるのですが、ある人物が語り始めるのを皮切りに、更に物語の中の登場人物が思い出話を語り始めたり、手紙を読み始めたりといったように、物語の中から更に物語の中へと、まるでマトリョシカのように、読者を深い渦の中へと飲み込んで行くように連鎖して行きます。
それぞれの物語が縦横無尽かつ密接にリンクしており、全編通して蜘蛛の糸のように複雑で洗練された伏線が張り巡らされています。このギミックを本で表現する森見登美彦氏の文章力たるや、感服。
また、物語が転換するに連れ、舞台は東京や森見登美彦作品ではお馴染みの京都だけに止まらず、無人島や雪原、大海原に砂漠とあらゆる世界へと飛躍して行きます。
情景描写の繊細さも相まって、読書を通して世界中を旅行しているかのような体験をすることができるのが凄く楽しいです。
水を得た魚のように自由自在に世界を広げていく様はまさに筆を得た登美彦、珍妙軽快でありながら深みのある文章は引き込まれること請け合いです。ぜひ読んでみてください。
それでは今日はこの辺で。